第29回 ai@ku定例セミナーを実施しました
2023年11月8日、第29回 ai@ku定例セミナーが開催されました。
演 題:途上国にみられる腸内原虫叢の構成と意義
演 者:所 正治 先生
金沢大学医薬保健研究域医学系国際感染症制御学 教授
腸内微生物叢を構成する生物としては、今やヒトの腸管恒常性の維持に不可⽋と認識されるようになった細菌叢以外に真核生物などが含まれます。しかし、腸管における真核生物分布の多様性については、病原性真菌類の⼀部を除き、ほとんど評価されていません。これは、真核生物として重要な病原体を含む寄生虫が先進国では撲滅され、研究対象とすることがそもそも困難なためです。しかし、寄生虫は人類の進化史に常に帯同してきた腸内微生物叢の構成メンバーと考えられ、その喪失はアレルギ―・自己免疫疾患の増加など様々な副作用をもたらしているようにみえます(衛生仮説)。人類が適応してきた本来の環境においてヒトと寄生虫はいかに共生してきたのか。また、その喪失によって現在の我々はいかなる影響をうけているのか。これらの疑問に答えるべく、私たちは途上国の学童を対象に網羅的な寄生虫の分子疫学調査を実施してきました。
寄生虫というと、腸管に寄生し胆管に迷入するような回虫やアメーバ赤痢・肝膿瘍の原因となる赤痢アメーバのような高病原性の蠕虫や原虫がよく知られていますが、途上国の学童の調査では、通常、このような病原性の寄生虫はほとんど検出されず、むしろ、多様な非病原性・片利共生タイプの腸管寄生原虫が、繰り返し、もしくは、継続的に腸管内に存在していることがわかります。
本セミナーでは、このような原虫叢の構成について現在までに明らかになった知見と、そのヒトの腸管免疫および健康に対する影響を示唆するデータを提示し、腸内原虫叢の意義について考察いたします。